和菓子産業誌WAGASHI INDUSTRY JOURNAL
ニュースコメンタリー / ニュース解説

老舗和菓子が香港と組む理由 四季の漢和菓子が示す新しい輸出の形

徳島の創業123年の岡萬本舖が香港ブランドと四季の漢和菓子を共同開発。完成品を送る輸出から、現地で体験を売る協業へ。小規模な和菓子店が海外に挑むときの原価、日持ち、人手の論点を整理します。

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ニュースの概要

徳島県で創業123年を迎える和菓子店の岡万本舖が、香港の匠ブランド「大師ある禮」と組み、四季をテーマにした漢和菓子のシリーズを開発した。日本の和菓子づくりの技術に、中国と日本に共通する文化の意匠を重ね、天然素材を生かした軽い甘さに仕立てたという。販売は香港の料理教室から始まり、岡万本舖の定番商品も同じ場で扱われる予定である。完成した菓子を送り出すだけでなく、現地の体験の場を足がかりにする点が特徴だ。老舗の和菓子店が海外ブランドと商品を共同で企画する動きとして、地方の菓子業界にとっても参考になる事例である。

引用元: 徳島の創業123年の老舗、香港ブランドと四季の漢和菓子を共同開発(Capital Hong Kong)

分析・見解

完成品を送る輸出から、現地で売る協業へ

和菓子の海外展開は、これまで完成品を空輸して現地の百貨店や専門店に並べる形が中心だった。この方法には弱点がある。生菓子は日持ちが短く、輸送費と関税が価格に重くのしかかる。結果として、現地では高級土産の位置づけに留まりやすい。

今回の協業は、共同開発と現地販売の拠点を組み合わせている。香港の料理教室を入り口にすれば、客は商品を買う前に、作り方や食べ方、季節の意味を体験できる。説明が必要な商品ほど、体験と販売が同じ場所にある価値は大きい。

軽い甘さが、現地の味覚との接点になる

日本の和菓子は、あんの甘さが強いと受け取られることがある。一方で香港には、点心や糖水(=甘いスープ状のデザート)など、甘さに慣れた食文化がある。ここで天然素材を生かした軽い甘さを打ち出すのは、現地の嗜好に合わせた調整とみられる。

見落としやすいのは、小豆の風味を残しながら甘さを下げる難しさである。砂糖は味だけでなく、保存性や食感も支えている。甘さを下げれば、日持ちが短くなり、口どけも変わる。だからこそ、職人の技術と配合の見直しが同時に必要になる。

漢和という意匠は、味より先に目で届く

和菓子は食べる前に、見た目と名前で季節を伝える菓子である。練り切りの桜や紅葉は、日本人なら説明なしに季節を感じ取れる。だが海外では、同じ造形が伝わるとは限らない。

中日で共有できる意匠を選ぶと、この壁が低くなる。例えば梅、竹、菊、月といったモチーフは、両方の文化圏で意味を持つ。味を試す前に、手に取る理由を作れる。意匠の共通化は、飾りではなく、販売の入口を広げる設計だと言える。

地方の老舗にとっての現実的な勝ち筋

創業123年という歴史は強い信用になるが、それだけで海外の客は動かない。大切なのは、歴史を現地の暮らしに引き寄せる翻訳役を持つことだ。今回の相手は、現地で匠の名を持つブランドである。単独で挑むより、販路と信頼を借りられる。

ただし、共同開発には課題も残る。味の決定権、ブランド名の扱い、製造をどこで行うかを曖昧にすると、後で揉めやすい。成功の鍵は、最初に役割分担を契約で明確にすることにある。

ビジネスへの影響

海外展開の前に点検したい三つの数字

和菓子店が同様の協業を考えるなら、まず原価、日持ち、生産量の三つを数字で押さえたい。軽い甘さに調整した配合は、日持ちがどれだけ短くなるのか。輸送を含めて何日売れるのか。繁忙期に追加注文が来たとき、職人の手が足りるのか。

特に上生菓子は、熟練の手作業に依存する。海外の注文を受けた結果、国内の予約客への対応が遅れては本末転倒である。海外向けは、型を使う商品や、もなか、羊羹のような保存の利く商品から始める方が現実的だ。

体験の場を持つ相手を選ぶ価値

共同開発の相手を選ぶとき、知名度より、客に会える場を持っているかを見たい。料理教室、茶会、ホテルのティータイムなど、説明しながら売れる場所があれば、初回の購入のハードルが下がる。

次に、小さく試す設計が有効である。最初の一シーズンは数量を絞り、客の反応を記録する。売れた味、残った味、質問の多かった点を集めれば、次の季節の商品に生かせる。

国内の仕事にも返ってくる効果

海外向けに甘さや意匠を見直す作業は、国内の客にも役立つ。健康志向で甘さ控えめを求める声は、国内でも増えている。海外での検証結果を、国内の季節商品や法人向けの贈答品に応用できれば、投資の回収が早まる。

意思決定者は、海外の売上だけで成否を判断しない方がよい。新しい客層、商品づくりの知見、取引先の広がりまで含めて評価すると、協業の価値が見えやすくなる。

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