ニュースの概要
島根県松江市で1874年に創業した和菓子店の彩雲堂が、昭和40年代から続く銘菓「伯耆坊」を2026年秋にリニューアルした。変更の中心は二つある。一つは表面にまぶす砂糖で、従来のグラニュー糖から、粒の大きい鬼ザラ粉糖へ切り替えた。すっきりした甘さと、結晶がゆっくり溶ける性質によって、中の餡の風味を邪魔しないようにしたという。もう一つは餡の原料で、北海道十勝産の特別栽培小豆「雪紫」を使う。小豆と求肥の組み合わせという菓子の骨格は変えず、素材そのものの持ち味を前面に出す方向の見直しである。
引用元: 彩雲堂、銘菓「伯耆坊」をリニューアル 十勝産小豆と鬼ザラ粉糖を採用(Saiundo / Jiji Press PR Wire)
分析・見解
砂糖の粒を変えると、餡の印象はどう変わるのか
砂糖の甘さは、粒の大きさで感じ方が変わる。細かい砂糖は舌の上で一気に溶け、甘さが先に立つ。粒の大きい砂糖は溶けるまでに時間がかかり、甘さが少しずつ広がる。今回の鬼ザラ粉糖は、後者の性質を生かした選択である。
伯耆坊は小豆の餡と求肥を組み合わせた菓子で、口に入れて最初に触れるのは表面の砂糖だ。ここで甘さが強く出すぎると、あとから来る餡の香りが負けてしまう。表面を「すっきり、ゆっくり」に変えたのは、餡へ向かう入り口を整える作業と見てよい。
品種名まで示す姿勢は、和菓子の語り方を変える
餡に特別栽培の小豆「雪紫」を選んだ点も見逃せない。特別栽培とは、農薬や化学肥料を通常より減らして育てる方法のことだ。産地だけでなく品種名まで示す語り方は、コーヒー豆やチョコレートで先に広がった。和菓子では「北海道産小豆」とだけ書く例がまだ多い。品種名を出せば、味の違いを客に説明しやすくなる。
ただし品種名は、約束でもある。毎年同じ水準の原料を確保できなければ、名前が重荷になる。小豆は天候で出来が変わりやすく、産地の不作は価格にも響く。名前を出すほど、仕入れの責任も重くなる。
変えすぎないリニューアルが、老舗に向いている理由
昭和40年代から続く菓子は、長年の客の記憶に支えられている。形や名前、小豆と求肥という骨格を守り、砂糖と小豆だけを替える手法は、離れる客を最小限に抑えながら、味の輪郭を上げられる。新商品をゼロから作るより、失敗の幅も小さい。
一方で、変更点が小さいほど気づかれにくい。そのため「何が変わったか」を言葉で伝える作業が欠かせない。砂糖の種類と小豆の品種をはっきり示したのは、その説明を担う仕掛けだと考えられる。味の変化を、客が口にしたときだけでなく、目で見たときにも伝える工夫である。
これから問われるのは、名前よりも毎年の再現性
原料を明示する商品は、今後ほかの菓子店にも広がるだろう。ただし差がつくのは、名前の見せ方ではない。毎年の仕入れの安定、砂糖の食感を保つ保管、出荷までの日数管理といった、地味な運用である。
粉糖は湿気を含むと固まり、粒の食感が変わる。包装の方法や在庫の回し方まで含めて、初めて味の設計が完成する。伯耆坊の今回の変更は、レシピの見直しにとどまらず、現場の管理力が試される取り組みでもある。
ビジネスへの影響
変更点を一言で言える形にして、売り場へ届ける
今回のように中身を大きく変えない改良は、気づかれにくいという弱点がある。そこで、変更点を一言で言える形にしておきたい。たとえば「表面の砂糖を粗い粉糖に変えました。餡の香りが先に来ます」のような短い説明である。店頭の札、包装の帯、通販ページの冒頭に同じ文を置けば、常連にも初めての客にも伝わる。
味の説明には、食べ方の提案を添えるとよい。お茶と合わせる、冷やさず常温で食べるなど、一つ添えるだけで、変更の意味が体験として残る。
原料の仕入れと原価を、発売前に固めておく
原料を名指しにすると、仕入れの失敗が表に出やすくなる。小豆は天候で収穫量が動くため、発売前に年間の必要量を見積もり、産地や農家との取引量を早めに決めたい。不作の年にどう対応するかも、先に決める。別の産地に切り替える、数量を限定する、表示を変える、といった手順である。
原価は一個あたりで計算する。特別栽培の小豆は割高になりやすい。価格を据え置くのか、少し上げるのかを、味の改善点と合わせて説明できる形にしておくと、客の納得を得やすい。
他の商品にも使える、小さな見直しの進め方
この進め方は、他の商品にも使える。まず、客が最初に触れる部分、つまり香り、表面、最初の一口を洗い出す。次に、その部分だけを変える小さな試作を作り、既存客の数名に食べ比べてもらう。反応が良ければ、原料の名前を出して発売する。
全面改良より費用も失敗も小さく、現場の負担も抑えられる。小規模な菓子店でも、砂糖の粒や小豆の品種といった一点から始めれば、取り組みやすい。
本記事の分析・見解は編集部によるものです。数値や制度の詳細は引用元の一次資料で確認してください。
